2015年02月

シラバスづくり(その3)

 今回は年間指導計画づくりを考えていきます。

 『論理エンジン』は中学校で扱っていらっしゃる先生方も多い教材ですが、今回は高校1年生を対象とした、国語総合での指導を考えます。


(1)国語総合の指導スタイル

 国語総合は標準単位が4単位の科目です。国語総合の最大の特徴は「現代文と古典(古文・漢文)とをともに指導する」点にあります。そのため、指導スタイルが大きく2つに分かれます。

 ① 現古混合スタイル

 現代文と古典とを概ね交互に指導していくスタイルです。
 昭和50年代後半に、それまでの「現代国語」「古典一乙」といった科目が「国語Ⅰ」に集約されたことをきっかけとして定着したスタイルだと思います。
 「国語総合」が1冊になっている教科書を採択している学校で多く見られ、現代文と古典とを「一人の先生」が担当している場合には、おそらくこのスタイルになることが多いのではないでしょうか。

 具体的には、4月第2週(4時間)で現代文の導入教材を指導し、第3週・第4週(計8時間)で古文の導入指導を行う。GW明けには現代文の小説を読み、それが終わって漢文に入る、といった授業進行になります。したがって年間指導計画も「国語総合」として一本の計画が作られることになります。

 ② 現古分割スタイル

 現代文と古典とを分割して指導するスタイルです。
 教科書については分冊タイプを採択している高校も多く、指導する教員も現代文と古典とで持ち分けているケースが多いと思います。

 具体的には、国語総合4単位が月・火・水・木曜日にそれぞれ1単位ずつ割り振られた時間割になった場合に、現代文を月・水曜日の2単位、古典を火・木曜日の2単位で指導するといった授業進行になります。したがって、現代文と古典とでそれぞれの年間指導計画を立てることになります。


 もちろん、上記①②を指導時期によって混在させる学校や、②だけれども一人の教師が現古の両方を指導している学校など、その指導スタイルは多様で、指導スタイルの優劣は全くありません。
 しかし、『論理エンジン』を効果的に指導していくにあたっては、②「現古分割スタイル」が最適であると、私は考えています。
 その理由はいくつもあるのですが、最大の理由は「指導が継続するから」ということです。

 当たり前のことなのですが、①「現古混合スタイル」を取った場合、古典の学習をしている間は現代文の学習は行いません。(家庭学習教材=宿題などで補うことも考えられますが、家庭学習時間の多くを英語や数学に費やさねばならない生徒の現状を考慮すれば、現代文の家庭学習に大きな効果を期待することは難しいでしょう。)
 結果的には、2週間あるいはひと月近くも現代文について教師の指導を受けないことになってしまいます。
 もちろん年間指導計画を立てるにあたって この「現代文指導の空白期間」を50%にすることができれば、年間の指導時間は、(その量だけで見れば)②と変わらないのですが、実際にはなかなかそのような計画を立てるのは困難です。
 というのも、中学国語と高校国語との最大の違いが「古典」にあるからです。
 生徒たちは高校に入学して初めて古典を本格的に学習します。したがって高校1年生では古典について丁寧に指導を開始しなければなりません。子どもたちの興味・関心を喚起しながら、同時に知識事項もしっかりと定着させていく必要があります。結果として古典に配する時間は自然と多くなってしまうのです。

 しかし、この状況を私は全く容認しません。私も長く古典の指導も行ってきていますから導入古典指導の重要性については十分認識していますが、それでもなお「古典偏重はやむを得ず」という考えには同意できません。なぜなら(生徒はともかくとして)指導する教師の意識の中に、「現代文は何とかなる(のでは?)」といった甘い認識が見え隠れしているからです。
 以前にもこのブログで書きましたが、この「何とかなる」意識こそが、子どもたちの論理的思考力を育成してくることができなかった最大の悪因です。それを根本から払拭するための教材が『論理エンジン』であり『思考ルート』ですから、その教材を使って指導していく以上は、「何とかなる」意識を構造的に排除できる。②現古分割スタイルを強くお勧めします。


(2)年間授業時数の学期別設定と教材割り付け

 ① 年間授業時数の学期別設定

 これは単純な計算です。原則として年間指導週は「13+13+9=35」ですが、行事などの都合もあり、この達成は難しく、開智高校では「12+12+8=32」を実授業最低実施週としています。これを下回ることはよほどの非常事態が発生しない限りありません。
 
 これに基づいて学期ごとの指導時間を計算しますから、1・2学期は「24時間」、3学期は「16時間」ということになります。

 ② 教材割り付け

 与えられた24あるいは16時間に教材を当て込んでいきます。ここで重要になる観点が、前回先生方に考えていただいた「教材観」になります。
 教科書教材についての教材観と『論理エンジン』についての教材観とを突き合わせてレイアウトしていきます。どちらかの教材観が不十分だと、この作業はストップしますので、十分な教材研究を済ませておきます。
 ディベートや学びあいなどを取り入れる場合には、それらをどこで行うかも決定しておきます。

 『論理エンジン』を軸とした計画は、多くの先生方が立てにくさを感じると思います。まずは教科書教材を軸として立案してみてください。


(3)1学期の指導計画(24時間分)

 1学期の指導のポイントは「『論理エンジン』の学習動機の定着」です。したがって教科書教材は最小限にとどめます。

 ① 教科書教材を決める。

 説明的文章教材を1つ選択します。教科書内のどの位置に掲載されているかにはこだわらず(その位置は教科書会社が勝手に決めただけですから)、『論理エンジン』での指導内容と考え合わせながら、導入教材として理解させやすい構造の文章を選びます。指導時間は「4時間」とします。

 小説教材を1つ選択します。オーソドックスですが、私は『羅生門』を使うことにしています。指導時間は「6時間」です。

 ② OS1のレベルとステップを決める

 OS1は『論理エンジン』を指導していくうえで最も重要な1冊です。特に『論理エンジン』は導入期の指導が最重要ですので、そこには十分な時間を取ります。
 今回の計画では「12時間」です。
 すべてのレベルとすべてのステップを12時間で「指導」することは難しいと思います。(問題を解かせて答え合わせをするだけなら可能です。しかしそれは「指導」ではありません。)
 この部分については、私が「これが良い」「これが悪い」ということができません。なぜなら(これもこのブログで何回か書かせていただいたように)それが生徒によって大きく異なることであり、指導する教師の考え方によっても大きく異なるからです。
 逆に言えば、自分の指導の特色が最も発揮できる部分ということになります。いろいろな指導場面を具体的にイメージしながらピックアップしてください。

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今回もかなり長くなってしまいましたので、ここでひと休みします。


シラバスづくり(その2)

 授業の「ゴールイメージ」を具体化するプロセスを通して、『論理エンジン』をなぜ自分は教材として使おうと考えたのかということが、改めて認識できたことと思います。
 そこで、次に行うことは、もう一度教材を見直すことになります。

(3)『論理エンジン』に対する教材観を再確認する

 『論理エンジン』のセミナーでは、私は先生方に必ず「指導する前に、少なくともひと通り、問題は解いておきましょう」ということを申し上げます。
 これは実に当り前のことなのですが、意外にも実践されていない先生が散見されます。教科書教材を指導する際にも、入試問題を教材とした授業を行う際にも、あらかじめ教材文を読み、問題を解くのは当たり前だと思うのですが、『論理エンジン』となると、それが実践されないのです。
 その原因は簡単です。指導する側が「その場で何とかなる(程度の問題である)」と考えているからです。この意識は学習する生徒も同様にもっていて、実はこれが『論理エンジン』を学習するうえでの最大の障害になります。

 高校生が、あるいは中学生が、小学校3・4年生レベルの文章を使った、ごく基本的な問題から取り組み始めるわけですから、確かに「設問に答えるだけ」であれば、その場で対応できます。(逆に、その場で対応できなければ、それはかなり深刻な学力状況であるといえます。) 生徒でさえそうなのですから、国語科の教師にとっては学習課題ともいえないレベルの問題が並んでいるわけです。

 『論理エンジン』を使った授業を行っていても、思うように効果があげられない先生は、おそらく『論理エンジン』の教材意図を正しく把握していないのだろうと、私は思います。
 『論理エンジン』が求める学力とは、ひと言でいえば「他人の話の筋道を客観的にそして端的にとらえる力」です。そのための練習教材として、まずはテーマ理解から入らなければならないような文章を用いていると、学習のめあてそのものが埋没したり、ぶれたりしてしまいます。それを避け、論理に集中して学習をするために、このような平易な文章が用いられているわけです。言い換えれば、内容理解に手間取ることなく、論理的読解に集中するための最大の工夫こそが、この平易な課題文であるといえます。

 たしかに「設問に答えるだけ」であれば、教師はその場で対応できます。しかし、その対応とは「その問題についての答えがあっているか、間違っているかの判断をする」程度ではないでしょうか。高校生に小学生用の問題集を与えて、その答えの正誤を伝えるだけだとしたら、生徒の学力が身につかないのは当たり前ですし、おそらくそれは授業ではないです。
 重要なのは、一つ一つの問題(『論理エンジン』ステップ)が何を意図してレイアウトされているのか、それを教師がしっかりと把握することです。

 このような話になると、「マニュアル(いわゆる教師用指導書)はないのですか」とお尋ねになる先生が、残念ながら出てきます。(検定教科書に指導書が出ていることが悪の根源だと私は考えています。)
 マニュアルを全否定するつもりはありませんが、マニュアルはあくまでも「一例」を示したものにすぎません。私たち教師は工業製品を作っているわけではないので、「例に従って」授業を行うことにほとんど意味はありません。(2)で授業の「ゴールイメージ」を明確にしていただきましたが、その「ゴールイメージ」は学校によって多彩であるはずです。だとすれば、その達成を意図した授業をマニュアル化できるはずはありません。

 余談になりますが、私が書いた『思考ルート』という教材があります。この教材は「教科書指導と論理エンジン指導との橋渡し」というコンセプトで作ったものですが、これも「たった一つの指導例」を示した教材にすぎません。それをどう使うかは、すべて各先生方の判断に任されているのです。

 話を戻します。今回のテーマ「『論理エンジン』の教材観を再確認する」とは、教材に生徒を合わせるのではなく、生徒に教材を合わせていくための、とても重要な段階です。最後にその流れを整理します。

① すべての問題を解く。

 さしあたりOS1~OS3までで良いと思います。これは概ね1年分の指導分量です。
 問題を解くだけですから各OSあたり60分~90分あれば一冊解き終わります。多忙の中で取り組んだとしても3~4日間で計画すれば無理なく達成できます。

② 各問題の意図を確認し、問題を取捨選択する。

 指導する生徒をイメージしながら、自分の授業で「使える問題」と「使えない(使いにくい)問題」とを区別していきます。
 この作業には付箋を用いるのがおすすめです。

 ここは時間がかかります。逆に言えば一番時間をかけたい部分でもあります。一見すると同じような問題に見えても、出題意図が違う問題もたくさんあります。
 また『論理エンジン』はスパイラル構造を持っているので、同じ意図でも思考のレベルが異なる問題もあります。
 これらをしっかりと見切って、より生徒にあった問題を選択していきましょう。担当する先生が複数いる場合には、まず各自が選択し、それを持ち寄って検討することができれば最高です。

 『論理エンジン』はたった一つの教材です。つまり汎用性のある教材です。すべての問題が、先生の目の前の生徒に適しているなどと考えないほうが良いです。自分が立てた「ゴールイメージ」に照らして、しっかりと目の前の生徒をイメージして、授業で扱う教材を選んでください。
 どうしても取捨選択できない場合には、『論理エンジン』のすべてのステップを扱うのも一つの選択です。ただしその場合には指導に時間が必要になるのは言うまでもありません。また、その場合であっても各問題の意図はしっかり認識したうえで指導するようにしてください。

③ 選択した問題(ステップ)について、発問を準備する。

 これは、すべての問題についてあらかじめ行わなくてもよいと思います。考査単位程度のスパンでの教材研究において、それまでの指導経緯などを勘案しながら作ると良いと思います。
 『論理エンジン』は教材に余白がたくさんありますから、そこを利用するのが便利です。できれば「生徒の反応の予想」も立てると次への展開が面白くなります。

④ 「学びあい」の場面が設定できる教材を選んでおく。

 これは各学校の指導方針にかかわる部分なのでオプションです。本校のように授業の多くに「学びあい」を取り入れている学校の場合には、『論理エンジン』は格好の教材ですので、私はほぼ毎時間「学びあい」の場面を設定しています。
 そもそも「論理」とは、他者とのコミュニケーションの場において、その確からしさを担保するために必要なツールです。したがって「学びあい」そのものが実践的訓練の場となります。


 以上の作業で、教材についての確認と指導の流れがイメージできたと思います。
 教材観といっても、大学で文学作品を研究するようなものではありません。教師に必要なのは「生徒を伸ばすために、この教材をどう使うか」ということだけです。常に目の前の生徒をイメージし、ゴールをイメージし、授業を組み立てていきましょう。

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 次回は取捨選択した教材のレイアウト、つまり「年間授業計画」について一緒に考えたいと思います。

シラバスづくり(その1)

 2月も半ばになり、今年度の授業もいよいよ大詰めです。
 この時期は、今年一年間の授業を振り返り、その総括をするとともに、次年度のシラバス作りに着手する時期でもあります。
 特に『論理エンジン』を使う授業ではシラバス作りはとても重要です。

 そこで、今回から数回にわたって先生方と一緒にシラバスを考えていきたいと思います。
 今年度、すでに『論理エンジン』を使ってきた先生方は一年間を振り返りながら、来年度から新たに『論理エンジン』を使う予定の先生方は従来型の指導との違いを意識しながら、『論理エンジン』導入シラバスを考えていきましょう。

 以下、かなり自分勝手なことをしゃべっていくことになると思います。失礼なことも多々あると思いますが、どうかご容赦ください。

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(1)なぜ『論理エンジン』を使うのか

 授業を行うにあたって私たちは教科書をはじめとした、いくつかの「教材」を用いますが、先生はなぜ『論理エンジン』を、その「教材」の一つとされたのでしょうか。もちろん「目的」があって導入されたわけですが、ここでもう一度その「教材を使用する目的」を明らかにしておきましょう。

 このような言い方をすると、なにか「目的」というのは、「最初にあるべきもの」のような印象になると思いますが、実は違いますよね。「その教材を使用する目的」というのは結果的に到達するものであり、最初にあるのは、その授業の「ゴールイメージ」です。

 自分の授業を1年間受けた生徒たちが、1年後にどのような状態になってことを理想とするか…これが授業のゴールイメージです。
 そしてその理想を実際のものとするために、どのような指導が必要なのか。そしてその指導をハイレベルで達成するためには、どのような教材が適切なのか。そして…と考えていく過程において「教材を使用する目的」が定義されてくるわけです。
 
 先生方が『論理エンジン』を使っていらっしゃる、あるいは使おうとなさっているということは、先生方がお持ちになっている「育てたい生徒像=ゴールイメージ」を達成しようとする過程において『論理エンジン』が何らかの役割を果たすであろうという期待感があるということだと思います。

 ずいぶん長くなりましたが、端的に言えば、『論理エンジン』シラバスを策定するにあたっては、「授業のゴールイメージ」と「『論理エンジン』の教材観」とがしっかりとリンクされていることが重要であるということです。

(2)授業の「ゴールイメージ」を具体化する。

 授業のゴールイメージは、それぞれの学校によって異なるものですが、おおざっぱに言えば「生徒が変わること」にあると思います。「変わること」とは「伸びること」と言い換えることもできるでしょう。
 では逆に、生徒が「変わった」「変容した」状態とはどのようになっていることだと先生はお考えでしょうか。これを具体的な箇条書きで、いくつも並べ立ててみてください。(同僚の先生方と出し合ってみると面白いと思います。数多く挙げられる人とそうでない人とがきっと出てくると思います。)

 つぎに、挙げた項目の中から「気持ち」「意識」の「変化・変容」を述べた項目をピックアップし、除外します。いうまでもなく、これらの項目はゴールイメージにはなりえないからです。
 「気持ち」や「意識」が変わることは大切ですが、それはあくまでもステップの一つであって、気持ちや意識が変わることによって、生徒たちの「行動」が変わらなければ意味がありません。

 残った項目の中に「生徒の行動の変化」を具体的に述べた項目がいくつあるでしょうか。
 たとえば、
 「教師の指示なしに、論理マークをつけながら文章を読むことができる。」
 「選択肢を、文の成分に分けて検討している。」
などは、すでに『論理エンジン』導入校の先生方はお考えになるかもしれません。
 一方で、これから導入しようとなさっている先生方からは、
 「現代文の模試の偏差値が、クラス平均で+10ポイント」
という「ゴールイメージ」が出てくるかもしれませんね。(これは「行動の変化」ではなく、「行動の変化の後にもたらされるであろうもの」ですが…)

 いずれにしてもこれらの項目に「正解」はありません。各学校の様子、生徒の様子によって多彩になってくるはずです。
 また、「行動の変容」を意図したゴールイメージが残らなかった場合には、先ほど除外した「意識改革レベル」のゴールイメージをもとに「行動の変容」イメージをつくりあげてみてください。

 ざっくりとですが、およそこのようなルートで「ゴールイメージ」はつかめると思いますので、それを整理して書き出しておきましょう。

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… 次は「『論理エンジン』の教材観」ということになりますが、ずいぶんと長くなりましたので、これは次回にしたいと思います。
プロフィール

2000年度より開智学園の教育理念を具現化するための新教育システムの構築に取り組み、2005年度に「S類」をスタートさせる。独自に開発した【S類メソッド】の柱の一つに『論理エンジン』を位置づけ、3つの力(論理的思考力、判断力、表現力)の総合体としての「智力」の育成に大きな成果を上げている。また、独自の理論に基づく「ソーシャル・スキルの育成」も人間力の向上に大きな効果をもたらしている。 趣味はギター。

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