2014年09月

授業力向上セミナー2014(第2回) その3

 今回が第2回セミナー報告の最終回です。

 第3部は「論理からアプローチする小説指導」です。
 教材は、
 ① OS2
 ② 思考ルート
 ③ 教科書(東京書籍 精選現代文)
です。

 過去のセミナーで小説教材を取り上げるときには、高校1年生の教材で、かつ多くの教科書で取り上げられている作品であることから『羅生門』を使っていたのですが、高校2年生での定番教材である『山月記』を取り上げることにしました。
 『山月記』は『羅生門』と比べて、論理的読解をするうえで核となる「場合分け」の難易度が高くなっているため、お作法を習熟するうえで適した教材です。

 前半では主に『思考ルート』を使ってお作法を確認します。小説で用いるお作法は原則一つですので、それを再確認するだけです。
 続けて教科書に入ります。先生方には生徒になっていただき、私が模擬授業形式で進めます。今回取り上げたのは、李徴の告白の二つ目、自らの詩業に強い執着を見せる場面です。
 ここでの「場合分け」と、その根拠の説明を学びあい形式で話し合っていきました。

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 学びあいの中で出されている面白い観点などは、随時ボードに起こしていきます。

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 特に今回のポイントは「場合分け」ですので、その観点を中心に整理していきます。

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 小説教材を論理的に読解する際の、あるいはその指導をする際の最重要ポイントは
 「読解と鑑賞との違いを明確に認識し分けていること」
です。
 これは生徒であっても教師であっても同じです。この両者を混同しているうちは論理的読解はできません。特に「得点力」が求められる入試小説においてはハイレベルで得点力を安定させることは困難です。

 授業レベルでは、いわゆる「読解力」があると思われる生徒でも、「得点力」が上がらなければ試験(入試)においてその読解力は正当な評価を受けることができません。
 試験において正当な評価を受けることができない経験を重ねてしまうと、そもそもの読解力についても生徒は自信を失っていきます。その結果、本当に読解力を落としていきます。
 この現象は、論説文のような説明的な文章よりも小説文について顕著に表れてきます。それは、読解と鑑賞との混同が得点力の低下に直結しているからです。

 私の授業では「鑑賞とは物語ること」と定義しています。定義の仕方はそれぞれの指導者が目の前の生徒に合わせて行うべきものですので、正解はありません。大切なのは「違いが明確に意識できるような定義」をしてあげることだと私は考えています。


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 以上で第2回セミナーも終了です。
 セミナー直後の、私の率直な感想は、「やはり一日セミナーは長すぎるな」というものでした。しかし、先生方から寄せられたアンケートを拝見すると、「長かった」というご意見は一つもなく、逆に「一日で多くの点について勉強できたのでよかった」という感想をたくさん頂戴しました。
おかげさまで私の疲れも一気に吹き飛びました。
 ご参加いただきました先生方、ありがとうございました。特に遠方から参加してくださった先生方は、前日と当日に宿泊をされ、2泊3日でのご参加だったと思います。
 重ねて御礼申し上げます。

 第3回セミナーは11月に東京で行う予定です。内容としては入試に向けての実践的な指導法を取り上げようと考えています。(変更するかもしれませんが)
 詳しい案内は水王舎から出されると思いますので、少しお待ちください。
 なお、約半数の席は第2回セミナー直後の予約で埋まっていると伺っています
。気になる先生方は直接水王舎にお問い合わせください。

 開智高校の授業は、まもなくディベートに入ります。その様子はこのブログでお知らせしようと思っています。

授業力向上セミナー2014(第2回) その2

 今日の報告はセミナーの「第2部」です。

 第2部のテーマは「教科書指導に活かす『論理エンジン』」です。
 教材としては、
  ① 教科書(東京書籍版) 『水の東西』
  ② 論理エンジン OS2
  ③ 思考ルート(東京書籍版)
を使用します。


 『水の東西』は高校1年生で学習する説明的文章の教材として定番であり、多くの出版社の教科書に採録されていることから、このセミナーのように全国から先生方が集まる研修では取り上げやすい教材の一つです。

 今回はOS2の学習ポイントである「文と文との関係」「段落の要点」を指導の観点として、教科書指導の展開事例を研究しました。
 
 はじめに「文と文との関係」をとらえていく基本的なお作法としての「指示語」「接続表現」についての指導法をおさえます。ここでは『思考ルート』を使って整理したうえで、『論理エンジン』で指導するステップを確認していきます。
 私の指導事例を模擬授業形式で聞いていただいたうえで、学びあいに入っていただきました。

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 次に『水の東西』の文章を使っての模擬授業を、生徒の立場で受けていただき、それぞれ段落の要点をまとめていただきます。
 いつもは「教師目線」でとらえている教材を「生徒目線」でとらえていくわけですが、これが上手にできる先生は意外と多くはありません。教師としての指導経験が邪魔をして、論理的な思考ルートを丁寧にたどっていくこと、言い換えれば、生徒のレベルでの論理的ステップを踏んでいくことが、かえってできなくなってしまっているのです。

 国語が苦手な生徒は、教師が「当然そうなるよね」と考えることが、「そうならない」のです。だから国語が苦手なのです
 教師にとっては「当然そうなる」部分には、生徒にとっての「飛躍」が隠されている場合があります。教師から見れば「当然」1ステップのところでも、生徒、特に国語が苦手な生徒にとっては2ステップが必要なのかもしれないのです。
 この「隠れたステップ」を発見するために、先生方には自分たちで作った「答え」をボードに書いていただき、それについて説明をしていただきます。 

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 その「答え」について私がいろいろ質問をしながら、隠れたステップの存在を検証していきます。

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 「『論理エンジン』を教科書指導に活かすのが難しい」という先生方が多くいらっしゃいます。
このイシューを解決するための第一歩は、『論理エンジン』の各レベル、各ステップが「何のために存在しているのか」を、指導する教師が明確に理解しているということだと思います。

 『論理エンジン』は高校生にとってはとても易しい問題ばかりが並んでいるように見えますが、それは取り上げている文章が易しいだけであって、そこで学ばせたい事項が易しいわけではありません。そこには日本語をツールとして、思考力や理解力(読解力)を着実に高めていくための「ステップ」がしっかりとまとめられています。
 従来型の指導方法で教科書の読解指導をしていく教師は、原則としてこの「ステップ」を、「高校生なんだから当然わかっているだろう」と思って(思い込んで)授業を進めているのではないかと私は考えています。

 教科書を指導していく場合でも、目の前の生徒(たち)に、どの部分の論理的思考ルートが欠けているのかの「診断」が適切にできれば、おのずから、どの部分に、どのタイミングで論理エンジンを導入すればよいのかは決まってきます。そのためには、まずは『論理エンジン』の教材研究をしっかり行っておくことが重要になると考えています。
 ※ ここで挙げた「診断」については、あらためて取り上げたいと思います。

 第2部では、今述べてきたような点を中心として先生方と研究を深めることができました。

 第3部は「小説指導」がテーマになります。
 次回の報告とさせていただきます。
プロフィール

2000年度より開智学園の教育理念を具現化するための新教育システムの構築に取り組み、2005年度に「S類」をスタートさせる。独自に開発した【S類メソッド】の柱の一つに『論理エンジン』を位置づけ、3つの力(論理的思考力、判断力、表現力)の総合体としての「智力」の育成に大きな成果を上げている。また、独自の理論に基づく「ソーシャル・スキルの育成」も人間力の向上に大きな効果をもたらしている。 趣味はギター。

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