2012年06月

授業交換

学校の教師には、授業以外にもたくさんの業務がありますが、そのなかでも授業に次いで多くの時間を費やすのが部活動の指導です。
春から夏にかけてのこの時期には、各種の大会が目白押しで、引率業務も多くなります。
公式戦などの引率に出かけるときには当然授業はできませんので、その授業は他の教師と交換することになります。
開智ではごく特殊な例外を除いて、教師の出張に伴って授業が「自習」になることはありません。
当たり前のことですが、生徒は「自習」するために学校に来ているわけではありませんから。

さて、そのような背景があって、昨日は2時間分、数学の先生との授業交換があり、現代文の授業を行いました。
今年度のわたしの授業は2クラスを合併で行っていますが、交換授業でしたので、この日は1クラスずつの実施です。幸い、担当している2クラスについて各1時間ずつの交換なので、授業進度に差が出ることはありません。

今回の授業のテーマは『羅生門』を教材として、
アウトライン読みのメリットとデメリットを体感すること。
です。

すでに生徒たちは『思考ルート』と『論理エンジン』とを使って小説文の読み方については学習しています。
つまり、「鑑賞力」と「読解力」との違いについては知っており、「読解力」を高めるために、これから学習をしていくという「めあて」は共有されている状態であるということです。

はじめに「思考ルート6」の確認を行った後で、各自がアウトライン読みを行います。
「思考ルート6」により、場面の変換点(変数xの範囲=定義域)を意識しながら生徒たちは読み進めます。

各自の読解が終わったところで「学びあい」に移ります。
今日はいつもと違う教室での学習ですので、グループのメンバーも異なります。
BlogPaintBlogPaint

各グループでは、場面をどのように切り分けたかをテーマに話し合いを行います。
議論の中心的な観点は「なぜそこで切り分けたか」ということです。

グループでの話し合いの結果は、黒板で発表します。そして、各グループの「分け方」について
相互に確認しあいます。

BlogPaintBlogPaint

生徒たちの「分け方」はさまざまです。それぞれの分け方には、それぞれの理由がきちんとあり、
その意味で、すべての分け方は「正解」です。
しかし、同時に生徒たちには、次の点についても考えてもらいます。

「思考ルート6に当てはめて心情(y)にアプローチしようとしたとき、xの範囲にこれほどの違いが出てよいのだろうか。そして、xの範囲に違いが出る原因はなんだろうか。」

BlogPaintBlogPaint

「思考ルート6」の理屈は理解している生徒たちも、現時点ではアウトライン読みをしていますので、場面の切り分け根拠はブレてしまっています。
この状態でいわゆる「小説問題」に取り組むと、心情問題で失点することになります。

今回の授業を通して「アウトライン読みのメリットとデメリット」について実感することができましたので、次は「ディテール読みのメリットとデメリット」に学習を進めます。

『思考ルート』の役割

本校では、昨年度まで『論理エンジン』を学習できるのはS類だけでしたが、
『思考ルート』ができたことで、今年度よりD類でも『論理エンジン』を学ぶことが
できるようになっています。

多くの学校で、『論理エンジン』の学習効果について高く評価しているにもかかわらず、
その導入に踏み出せない一番の理由は、

「教科書の学習と両立させることができるだろうか」

という悩みを先生方がお持ちだからです。

たしかに『論理エンジン』を効果的に指導するためには、指導者に相応の指導スキルが
求められます。
したがって『論理エンジン』の指導経験のない先生にとっては不安が先立つのも
無理はありません。

しかし、『論理エンジン』は決して難解な教材ではありません。しかも現代文の学力だけでなく、
「脳力」そのものを鍛え上げることができる教材です。
高校生という、極めて柔軟な思考ができるこの時期には不可欠な教材とも言えます。

そこで、無理なく「教科書の指導」と「論理エンジンの指導」とを両立させるために開発したのが
『思考ルート』なのです。

今回は、本校で今年度より『論理エンジン』『思考ルート』の指導に取り組み始めた
槌谷先生の授業を紹介します。

******************************************************************************

槌谷先生は教師歴20年以上のベテラン教師です。当然「自分の指導スタイル」も
確立されています。
しかし、一方でその「自分流」に固執することなく、いろいろな指導方法についてもアンテナが高く
新しい指導法の研究に熱心に取り組んでいらっしゃいます。

さて、今回の授業の教材は『羅生門』です。高校生が学習する代表的な小説教材の一つです。

「『論理エンジン』で小説が読めるようになるの?」
 
… この問いは私も多く耳にしてきました。
おそらく槌谷先生も、かつては同じ疑問を持たれていたはずです。
しかし、すでに2か月以上にわたって教科書の教材を、『論理エンジン』と『思考ルート』を使って
指導してこられていますので、槌谷先生の中で、この疑問に対する明快な答えが出ています。

「小説を読むときに必要な力は2つです。1つは鑑賞力。もう一つが読解力です。」

「鑑賞」とは極めて高度で、しかもごく個人的な読解姿勢であり、それに対して読解力とは極めて
客観的な読解姿勢であるということが、『思考ルート』を使いながら、わかりやすく生徒に伝えられていきます。

次に、作品の文学史的な事項の説明を経て、いよいよ作品本体に入っていきます。
この時点で『思考ルート』はいったん閉じさせ、教科書だけが開かれています。
ここでは「本文通読」、「大きな場面の切り分け」といった、オーソドックスな小説読解の手順が展開されていきます。そして、そのあとでごく自然に『思考ルート』学習への橋渡しとなる発問が提示されます。

「では、初めの文から少し丁寧に読んでいきます。この部分から『読解』できる、下人の心情を考えてみましょう。」

BlogPaintBlogPaint

この発問の裏には、

「人物+場面→心情」 … 「思考ルート6」

が意識されています。それをいきなり『思考ルート』で学習させるのではなく、
「教科書だけ」を使って生徒に提示しているのです。

ここでは開智流の学習スタイル「学びあい」も取り入れられています。
生徒たちはグループの中で意見交換しながら、作品にアプローチしていきます。

ある程度話し合いがまとまった時機を見て、生徒に発表させます。そして、そのあとで
『思考ルート』を使って、今までの学びを確認させていくのです。

BlogPaintBlogPaint

*******************************************************************************

今回の授業は『思考ルート』を導入した「教科書」指導の大きな可能性を示唆した授業であったと感じました。
私自身も想定していなかった『思考ルート』の「新しい使い方」を教えてもらうことができました。

今年度は槌谷先生含め、4名の教師が『論理エンジン』『思考ルート』そして教科書を使って授業を行っています。
それぞれの先生方の実践については、このブログでもどんどん取り上げていきたいと思います。

また、全国で『思考ルート』をお使いいただいている先生方からもいろいろな実践例を教えていただきたいと思っています。よろしくお願いいたします。
プロフィール

2000年度より開智学園の教育理念を具現化するための新教育システムの構築に取り組み、2005年度に「S類」をスタートさせる。独自に開発した【S類メソッド】の柱の一つに『論理エンジン』を位置づけ、3つの力(論理的思考力、判断力、表現力)の総合体としての「智力」の育成に大きな成果を上げている。また、独自の理論に基づく「ソーシャル・スキルの育成」も人間力の向上に大きな効果をもたらしている。 趣味はギター。

カテゴリ