2011年10月

Contemporary issues ワシントンD.C. スミソニアン

テキサス州ヒューストンからワシントンD.C.に向かいます。
緯度にして、奄美大島から仙台あたりまでの移動となります。時差も1時間あります。
気温はヒューストンに比べて10℃以上低めとなり、朝晩はかなり冷え込む感じです。

移動日当日はナショナル空港からホテルに直行してしまうので、現地での活動はありません。

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翌23日(日)はスミソニアン・ナショナル・モールでのグループ研修です。
この地区には数多くの博物館や美術館などが立ち並んでいます。
これらの博物館はイギリス人の科学者ジェームズ・スミソンが、「知識の普及と向上」にと
委託した遺産を基金としてつくられた「スミソニアン学術協会」が運営しています。入館料は
すべて無料です。

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生徒たちはいろいろな施設を訪れながら、自分の研究テーマについての情報を収集するのです
が、残念ながら自分の研究テーマにぴったり合った博物館が都合よく存在するわけでは
ありません。
そこで大事になるのが「見せられるのではなく、自分で見る」姿勢ということになります。

この地区にある博物館の中に展示されているものは学術的に極めて価値の高いものばかりです。
しかし、それらは「事実」としてそこに存在しているのであって、
解釈をまとっているわけではありません。

ここでは「本物」=「事実」を間近に、あるものは直接触れて観察することが可能です。
しかし、「見せられている」者にとっては、その価値は受動的です。自分自身が主体的に「視点」
(=目的、切り口)を持って「事実」と対面することによってはじめて、その「事実」は
真の価値を持ちます。
自分が主体的に解釈することによって、単なる事実が「価値ある事実」に変貌するわけです。

ステゴザウルスの化石を通して環境問題を考え抜く。
飛行機の進化の過程を通して平和を考える。
ホロコーストの現実から歴史を考える。
ダヴィンチの絵画から…。

思考の広がりは無限大です。
生徒たちは電子辞書片手に説明文を一生懸命に読んでいます。
あとはそれをどう「解釈」してくれるか…です。
最終論文、期待しています!

Contemporary issues ヒューストン・NASA ②

NASAから戻って来た生徒はブリーフィングのあと、ギャレリア・モールという
ショッピング・モールに出ます。BFにあるフード・コートで食事をとるためです。

われわれが宿泊しているウェスティン・ホテルがあるギャレリア地区は、ヒューストンの
中でも、いわゆる高級住宅街の中心をなしている地区で、世界各国の高級ブランドの
ショップが軒を連ねています。治安も行き届いている安全な地域です。

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フード・コートには数多くの食べ物屋さんのほか、雑貨屋やお手頃価格の洋服屋などが
あり、真ん中には大きなアイススケートのリンクがあります。(1年中営業しています。)

生徒たちはお店選びをしながらショッピングなどを楽しみます。
なかにはスケートをする生徒もいます。

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NASAの研修で始まった一日がこれで終わります。

明日はワシントンD.C.への移動日です。
今日一日の活動でくたくたの生徒たちは、最後の力を振り絞って明日のための
荷造りをし、あっという間に夢の中です…。

Contemporary issues ヒューストン・NASA ①

今年度のContemporary issues米国研修が無事終了しました。
事故なく、124名の生徒を帰国させることができ、ほっとしています。

さて、今回から数回に分けて現地研修の様子をレポートしたいと思います。


10月20日午後4時に成田を出発し、約12時間のフライトを経て、テキサス州ヒューストンに
到着しました。時差があるので、現地はまだ20日の午後2時です。

テキサス州は、州といっても日本がすっぽり2つ入ってしまうほどの大きさです。
ヒューストンは緯度でいうと奄美大島と同じくらいに位置し、メキシコ湾に面した港町で、
1年を通じて湿潤で温暖な気候です。
今回の到着日も(現地の人は寒いといっていましたが)28℃程度で、少し動くと汗ばむほどの
陽気でした。
この日はそのままホテルに行き、翌日のNASA研修に備えます。

21日、バスでNASAに向かいます。
NASAは米連邦政府の機関ですので、セキュリティは極めて厳重です。
S類の研修は今回で5年目になりますので、お互いに理解しあっていますが、セキュリティを
通過するときには、もちろん特別扱いなどありません。
ただし、一般の研修者とは違って、NASAの公開時刻の1時間前から特別に受け入れてもらえる
ので、落ち着いて、ゆっくりと研修することができます。

はじめに「トラム」に乗って、連邦政府施設に入ります。警備が厳重で、定められたルートでの
見学が義務付けられますが、通常であれば見られないような部分にまで入ることができます。

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特に今回の研修では、いままで決して公開されなかった「スペースシャトル」のコントロールルーム
に入ることが許されました。スペースシャトル計画が終了したことを受けての対応らしいのですが、
それでも、現時点でなお「国際宇宙ステーション」のコントロールはその部屋でも行っており、
リアルなライブ映像を目の当たりにすることができました。
もちろんNASAの方が細かく解説してくれます。

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(スペースシャトルの、実際のミッション・コントロール・ルームです。)

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(左:フライト・ディレクターが宇宙ステーションと交信しています。)
(右:宇宙ステーション内部のLive映像です。
   現在は、日本人とアメリカ人と、ロシア人が乗り組んでいます。)

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(シャトル・クルーの訓練施設です。火星探査機なども置かれています。)

トラムのあとは、NASAの研究員の方から直接レクチャーを受ける「スペース・アカデミー」に
移ります。
国際宇宙ステーションで運用している「カナダ・アーム」というロボット・アームをお手本に、
ロボット・アームの模型を作ります。基本となるいくつかの原理が紹介され、
それを組み合わせて作るのですが、材料と予算が限られているため、かなりの創意工夫が
求められます。

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(材料購入計画書・予算計画書です。英語で作成します。)

アカデミーが終わると昼食です。
昼食はNASAの中にあるフードコートでとりますが、各自で注文しなければなりません。
ちゃんと英語で注文できるか、注文した物がちゃんと出てくるか、生徒たちはドキドキです。

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昼食後はNASAのアミューズメントエリアで記録映画を見たり、月の石に触ったり、お土産を
買ったりと、楽しく過ごします。

NASAからの帰途ではウォルマートなどの大きなショッピングセンターによって買い物をします。
アメリカン・サイズに圧倒されながらも、生徒たちはショッピングを楽しんでいます。
この頃になると、だいぶ英語を使うことに対する抵抗感もなくなり、積極的に買い物をする姿が
目につくようになりました。

この後はホテルに戻るのですが、ホテルに戻ってからも大きなイベントが待っています。
次回をお楽しみに!

Contemporary issues

Contemporary issues(CI)というのは、開智高校S類の教育理念を創っている
大きな2本柱のうちの1本です。

もう1本の柱、『論理エンジン』とともに
「国際社会で貢献できる論理的思考力、判断力、表現力、そして創造力を身につけた人材」
を育成するために欠かすことのできない教育活動になっています。

CIは約2年間にわたる大きな企画です。
企画全体は概ね次のようなステップで進行していきます。

① 一人ひとりが現代社会が抱えるさまざまな課題について広く観察し、
② その中から自分が研究してみたいテーマを一つ決めます。
③ そのテーマについて、いろいろな角度から自分なりに切り込み、
④ 必要な情報を集めます。
⑤ 集めた情報を選択・統合しながら
⑥ テーマに対する自分なりの視座を決め、
⑦ そのテーマが抱えている問題点をより具体的に抽出します。
⑧ そして、その問題を解決するための仮説を、論理的に構築します。
⑨ さらに、⑦・⑧について、現代の国際社会において良くも悪くも影響力の大きい
  アメリカ合衆国に行き、そこで自分の研究課題がどのようにとらえられているか
  を調査します。
⑩ 最後に、⑨での現地研修の結果を踏まえながら、課題解決のための提言をまとめます。

テーマの取り出し方には生徒の個性が非常に強く表れ、ごく身近なことを考察する
生徒もいれば、大きなテーマ(時間的、地理的、範疇的…)に取り組む生徒もいます。
切り口もいろいろで、通りいっぺんの切り口で満足してしまう生徒もいれば、
キラッと光る切り口を見せる生徒もいます。
仮説も実現可能性の高い路線を追いかける生徒もいれば、「夢」に近いような仮説を
立てる生徒もいて、とにかく「個性が出る」企画です。

多くの生徒が中学卒業までは、「正解にたどりつくこと」が「学習」であると思い込んで
(思い込まされて)来ていますので、「正解などない」学習には大いに戸惑うようです。

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学校を卒業し、社会に出れば「正解がある課題」など存在しないにもかかわらず、学校では
「正解にたどり着くこと」「『正解』を追い求めること」を生徒に強要し、生徒もそれを
さも当たり前のことのように受け入れます。

しかし、この状態で高校を卒業してしまった生徒は、言い換えれば、この状態で18歳に
なってしまった人間は、社会でどれほどの仕事ができるのでしょうか。社会にどのような
貢献ができるのでしょうか。
社会は、あるいはそれを構成している人間は「製品」ではありません。
社会も人間も生きています。だからこそ、そこには唯一絶対の正解などおそらく存在
しないでしょう。 存在するのは「より良く~」という視点だと私は考えています。

「より良い人間社会を創造することができる人材を育てたい」
私のこの思いがCIには強く反映しています。


明日、20日から一週間、生徒たちと一緒にアメリカ合衆国に行ってきます。(⑨)
テキサス州(ヒューストン)とワシントンD.C.での研修です。
現地の高校との交流プログラムなどもあり、盛りだくさんですが、S類生一人ひとりが
大いに楽しく、大いに興味深い時間を過ごすことができるように、万全のサポートを
してくるつもりです。

現地での様子については、戻ってきましたらこの場でご紹介したいと思います。

学びあい【理科】②

(授業者) 今見ている絵は渦巻ではなく、同心円が描かれているのですが、
      どうして渦巻に見えるのでしょうね。その理由を話し合ってみましょう。

生徒たちはいろいろと自分の考えを述べあっています。

「白黒だからじゃないか」
「円を描いている線の太さが内側ほど狭くなってるよね』
「後ろのひし形っぽいのが怪しい」 …

この授業の目的は「正解を知る」ことではなく、現象を体験することで、
現象の起こる理由を考察することにありますから、授業者がこの段階で
生徒を誘導する必要はありません。

続いて、次のシートが配られます。
このタイプのシートは数種類用意されており、グループによって
いろいろなシートが配布されました。

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Kitaoka, A. and Ashida, H. (2007) A variant of the anomalous motion illusion based upon contrast and visual latency. Perception, 36, 1019-1035.

(授)「このシートを振ってみてください。どのように見えますか。」

(生)「…? あっ、動いてる、動いてる!」

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動いて見える生徒と、動いて見えない生徒とがいて、教室内のあちらこちらで
グループの枠を超えて話し合いの輪が広がっていきます。

(授)「この絵がなぜ動いて見えるのか。それを考えると先ほどの絵が渦巻に見える
   理由がわかるかもしれません。」

(生)「残像じゃないの」
   「この前やった、慣性の法則とか関係してるんじゃない?」
   「ぱらぱら漫画の原理…とか?」


…… このような学習過程を通して、生徒たちは「目は、動いているものを見る」
「輪郭を見る」といった、目の働きの核心に近づいていきます。

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今回は「理科」における学びあいの例をご紹介しました。

理科において学びあいの場面を設定しようとすると、まずは「実験」が思いつくわけですが、
ただ「実験をする」だけでは学びあいにはなりません。
実験を通して生徒たちが「疑問」を発見できること、そして、その解決のルートをいろいろと
試行すること。さらにその結果を思考すること。この流れの中に学びあいの場面があります。
そのことを、今回の授業は実践を通して、見事に示していました。

また、学びあいを成功〈成立〉させるか否かは、教師の発問に左右されることも、この授業が
教えてくれました。この授業では的確な発問が随所に見られました。

学びあいのルートと発問―――この開発が一人ひとりの教師の課題であると実感しています。

学びあい【理科】①


今回は「理科」の学びあい授業について取り上げます。

教科名:生物Ⅰ
単元名:環境と動物の反応
     ・刺激と動物の反応
      ・光の受容と目
クラス:2年生(理系) 生物選択者

本時の学習テーマは「錯視」についてです。

すでに目の構造などについては学習は終わっており、今回は

「学習した内容を、体験を通して確認する」

ことが「学びあいの場面」として設定されています。

はじめに次のシートが全員に配布されました。

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First presented by Fraser (1908); Reproduced by Akiyoshi Kitaoka (2009)


(授業者) この絵が、みなさんにはどのように見えますか。

生徒たちは口々に見える物を発表し始めます。

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「真ん中に花が見える」
「花というか、桜でしょ?」
「星じゃないの?」
「目が回るね」
「吸い込まれそう」…

この時点では、この絵が「渦巻き」であることに疑いを持っている生徒は一人もいないようです。


しばらくお互いに感想を発表し合っているなかで、ひとりだけこの「渦」を指でたどっている
男子生徒が出てきました。
傍から見ていると、彼は何度も何度も指でたどり、最後には鉛筆でたどり始めました。
そして、やっと自分の思いに自信が持てたようです。

「これって丸じゃない!?」

すかさず授業者から質問が飛びます。

(授)「丸って? 言い換えると?」
(生)「丸っていうのは … 円です。」

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このやり取りに対して、すぐに周囲の生徒が反応します。

「えっ? 円なの?」
「ほんとだ、ほんとだ」
「でも、私のは渦だよ」
「えっ、ちょっと待って。こうでしょ、… ほら」

なかには、指でたどってもどんどん内側に引き寄せられてしまう生徒もいて、
互いにあれこれ話しながら、「錯視」を体験しています。

この段階で「真ん中に花が見えていた」ことなど、すっかりどこかに行ってしまい。
生徒たちの興味・関心は「どうして渦巻に見えるんだろう」という一点に一気に集中しています。

(次回に続きます)

「学びあい」フェア ①

先月末に今年度の文化祭も無事に終わり、2学期の学校生活も落ち着きを取り戻してきました。

2学期は行事も多いのですが、同時に学習指導に落ち着いて取り組める時期でもあります。

以前、このブログでも少し紹介しましたが、本校では数年前より「学びあい」学習を
積極的に授業に取り入れています。

そして、今月と来月は、教師が自分の「学びあい」授業を公開する「学びあい公開月間」と
なっています。

この「学びあい公開月間」ですが、私は個人的に「学びあいフェア」と名付けています。
(勝手につけた名前ですので、校内でも全く使われていませんが…。)


一般的に教師が公開する授業は「研究授業」などと呼ばれ、
お互いに勉強する場のことを「研究協議会」などと呼ぶのですが、
いずれにしても、かなり仰々しいネーミングです。

それほど大上段に構えることなく、一人ひとりの教師が日頃実践している
「学びあい」授業をオープンにし、
お互いに参観しあって、教師同士も「学びあう」…そんな2か月間にしたいなあとの
思いを込めて、こんな風に、自分なりに呼んでいるわけです。


生徒にとっての「学びあい」が、自らの思考ルートや視座を飛躍的に発展させるのと同様に、
教師も「学びあい」を「学びあう」ことで、授業創造力や教材開発の視点が飛躍的に広がると
私は考えています。

自分の学習スタイルや考え方に固執し、教師や友人のアドバイスに耳を傾けようとしない
生徒が「伸びない」のと同じようにように、
自分の授業スタイルや教材観、考え方に固執し、他の教師の実践に学ぼうとしない教師も
また「伸びない」のだと思うのです。


次回から、「学びあいフェア」の実践報告をしていきたいと思います。
文字では伝えきれないのが「学びあい」だとは思いますが、できるだけ臨場感ある報告が
できるように頑張ってみます。

プロフィール

2000年度より開智学園の教育理念を具現化するための新教育システムの構築に取り組み、2005年度に「S類」をスタートさせる。独自に開発した【S類メソッド】の柱の一つに『論理エンジン』を位置づけ、3つの力(論理的思考力、判断力、表現力)の総合体としての「智力」の育成に大きな成果を上げている。また、独自の理論に基づく「ソーシャル・スキルの育成」も人間力の向上に大きな効果をもたらしている。 趣味はギター。

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